JACUEセレクション選定図書
JACUEセレクション2020(2019年度認定図書)
①藤本昌代・山内麻理・野田文香編著(2019)『欧州の教育・雇用制度と若者のキャリア形成‐国境を越えた人材流動化と国際化への指針‐』白桃書房
選定理由(抜粋)
本書は、大学生を含めた若者の雇用・就職、キャリア形成支援に関する制度・政策、および関連する学生の取組を正面にすえて、高等教育のあり方を論じたものである。本書の内容は、日本と同様に政府主導型の制度の導入が行われているとされる欧州の教育制度、雇用制度、入職後のキャリア等をめぐる動向を理解し、国ないし広域圏レベルの政策形成や制度構築についての示唆を得るとともに、日本の課題を浮き彫りにする上で貴重な資料となり得るものである。
②山田礼子(2019)『2040年 大学教育の展望‐21世紀型学習成果をベースに‐』東信堂
選定理由(抜粋)
本書は、ここ20年の社会変革を背景とした大学教育の改革のプロセスを俯瞰的視野と具体性の双方の視点をもって丁寧に記述するとともに、知識基盤社会に向けた今後の20 年の大学の在り方について明確な方向性を提示するものである。内容は、学生の「主体的に学ぶ力」の獲得という視点をベースに、グローバル・コンピテンシー習得につながるカリキュラムや教授法の工夫、学修成果を基盤とした教学マネジメントなど多様であり、大学の執行部をはじめ多くの大学関係者に、是非手に取ってもらいたい本である。
③濱名篤(2018)『学修成果への挑戦‐地方大学からの教育改革』東信堂
選定理由(抜粋)
本書は、近年の文教政策と絡ませながら学士課程教育における実践的な課題を網羅的に論じたものである。学士課程における学修成果を核にした教学マネジメントについて、私学経営者としての経験を踏まえて明確に述べられている。今後、高等教育研究を志す者や、大学教職員が自らの大学改革を検討する際に、近年の高等教育政策の動向を知る上で有益な書である。
④関西国際大学編(2018)『大学教学マネジメントの自律的構築‐主体的学びへの大学創造20年史‐』東信堂
選定理由(抜粋)
本書は、関西国際大学における20 年間の先駆的な教育改革の取り組みについて4つの時期にわたって詳細にまとめられたものである。本書は、大学教育の今日的課題に対して、全学FDによる組織的な教育改革を軸としてアクティブラーニングやeポートフォリオ評価、学習支援型IRといった様々な方法を導入・推進していく過程が事細かく描かれており、FD・SD・IR・大学組織開発者にとってのリファレンスともなる一冊である。
JACUEセレクション2019(2018年度認定図書)
①後藤文彦著『主体性育成の観点からアクティブ・ラーニングを考え直す』2018年、ナカニシヤ出版
選定理由(抜粋)
本書は、現在大学等で行われているアクティブ・ラーニングの実践を主体性育成の観点から批判的に分析し、筆者らが実践した主体性の育成に成功した授業について、その方法と成果を示したものである。本書の中で「心の健康」と主体性の関係がすべて明解になっているわけではないが、アクティブ・ラーニングを通して学習者の主体性を引き出すことに困難を極めている多くの人たちには、新しい視座と方法を提示するものである。
②大森昭生、成田秀夫、山本啓一、吉村充功、高見 大介著『今選ぶなら、地方小規模私立大学!〜偏差値による進路選択からの脱却〜』2018年、レゾンクリエイト
選定理由(抜粋)
前半は大学問題の動向についての読みやすい解説であり、後半の事例紹介には評判の3大学が選択されている。本書の趣旨は大学人として実感できるものであり、地方小規模私立大学のチャレンジについて教育実践のさまざまな苦労がよくわかる記述がなされている。前半部分については入試改革に関する掘り下げ、後半については、学生たちがつけた学力面の自信と結果や、理事会とのやり取りなどの記述に物足りなさが指摘されたが、本書は大学人に元気を与えるものであり、学会員の参考になると判断される。
③栗田佳代子、日本教育研究イノベーションセンター編『インタラクティブ・ティーチング—アクティブ・ラーニングを促す授業づくり』2017年、河合出版
選定理由(抜粋)
本書は、オンライン講座「インタラクティブ・ティーチング」の内容をもとに作成された主に大学教員を対象としたハンドブックである。アクティブ・ラーニング、学習の科学、授業設計、教育評価、大学教員、ポートフォリオなどが記されている。さまざまな既存の書籍の内容がまとめられている点、読みやすさが工夫されている点、ワークシートが準備されている点、「先達に学ぶ」が工夫されている点で評価された。
④近田政博編『研究指導』2018年、玉川大学出版部
選定理由(抜粋)
日本の大学における学士課程教育の強みの一つは、多くの分野においてキャップストーンとして卒業論文・研究・制作を課し、そこに教員の時間やエフォート等を含む相当量のリソースを投入することで最終的な教育の質保証につなげている点にある。しかし、かかる実践は個々の教員の経験に委ねられていることが多く、また分野による違いが大きいため、方法論の体系的な整理が十分ではなかった。研究指導に資する教育学、学習科学、心理学、経営学(マネジメント)等からの知見を場面・目的に分けて簡便な形で提示する本書が現場を担う多くの大学教員に活用されることの意義は大きい。
⑤ジェラルド・ガーニー他、宮田由紀夫訳『アメリカの大学スポーツ—腐敗の構図と改革への道』2018年、玉川大学出版部
選定理由(抜粋)
本書は、大規模に商業化したアメリカの大学スポーツにおける管理運営や運動部学生の教育などに関する諸問題について、その原因を客観的データを用いて歴史的に検証し、学生個人の権利擁護や文化として築き上げられてきた大学課外スポーツの教育的使命を強化することの必要性を説いている。本書で指摘されたアメリカの大学スポーツの問題点やその対策として示されるガイドラインは、日本にすぐに参考になるとは必ずしも言えないが、各大学がこれまで実施してきた課外スポーツ教育を再検討し発展させる上で、貴重な資料となりうるものと考える。